私にはなにもないと思いたい。

「主ー!ねんがじょう、ちゅうのが届いたぜよ。」
ほれ、と陸奥守が差し出した数枚の葉書。
私宛に届いたもの、いや。父、母、私、弟、の順で、私たち一家に宛てた結果家族の一員として「私」が一応記載されているものを選んで母親が送ってきたものだ。小中学生時代に流行った友人間でのやりとりは、いつの間にか消えていった。消失を怖がる私にしては珍しく、寂しいとは思わない。
「ありがとう。」
陸奥守から受け取った年賀状をさくさくと目で追っていく。
家族ぐるみで付き合いのあった人間の社交辞令、第二子の出産報告、あぁこの人は今年も水墨画を描いている。
ふ、と最後の一枚で手が止まる。
昔好きだった男の子。家族写真の、彼のお母さんが昔と変わらなかったから気づいてしまったのだ。
「お、なかなかの男前じゃのう!」
よいしょと私の横に腰を下ろした陸奥守に寄りかかる。
「そうじゃないところが好きだったの。」
「?」
「昔はもっと、違ったの。」
頼りなくて、首だってこんな太くなかったし、細いフレームの眼鏡もかけてた。背だって平均よりは少し高い方だったけれど、それに相応しい筋肉もついていなかった。
「もう十年以上会ってないの。」
「人の子の成長は早いけぇのお。」
「嫌ね、私、嫌よ。」
陸奥守の手を握る。握り返してくる温度が、今日は気にならなかった。むしろ今日はそれが私を安心させたのだ。
「私も綺麗になっちゃった。」
陸奥守に向かい合うように、彼の膝の上に跨る。少し伸びた前髪を横に流してくれた。
「私、陸奥守のこと大好き。」
「おー、嬉しいのぉ。」
ニッと笑って、腰に回った手が優しく私を撫ぜた。ぎゅっと抱きつけば片方の手はよしよしと背をあやす。
「後でママに送り返しておいて。」
うんうんと頷く柔らかな陸奥守の髪が頬をくすぐる。
永遠を愛したかった、ずっと。
「主はいつだって綺麗ぜよ。」
「ふふ、陸奥守だぁいすき。」
私には永遠からの庇護がある。まだ生きていける。

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