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	<title>静脈管の中</title>
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	<description>非公式二次創作サイト 予告なしの鬱や死ネタを含みます</description>
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		<title>.   con tenerezza(黒崎蘭丸)</title>

		<description>人は食べたものでつくられている、なら。…</description>
		<content:encoded>
			<![CDATA[ 人は食べたものでつくられている、なら。

「ねぇ靴脱いで良いかな。」
「気つけろよ、ガラスとかあるかもしんねぇから。」
「んー、平気ー。」
 歩きづらそうにしていたサンダルを脱ぎ捨て、女は砂浜を数歩駆けた。きめ細かな砂の感触を楽しんでいるらしい、真っ赤なペディキュアが隠れては浮き上がってくる。あいにくの曇り空。雲の隙間から所々差し込む光が海を細く貫いている。
潮風が彼女のワンピースを膨らませて去っていった。おろしたての白が眩しい。
「蘭丸〜、」
こっち、と手招きしている。そのまま後ろ向きで歩いたせいで女の足がもつれた。
あ、と俺の口から母音がこぼれ、間に合うはずもない右手が持ち上がる。それと同時に、わあとかきゃあとか言って、数歩その場でバタバタやり、なんとかバランスを持ち直してあいつはよろよろ歩き出した。一人で笑っている。
「危なっかしいんだよ！ あんまはしゃぐな！」
よく言われる、そう言って笑う。白が忙しく踊った。彼女が放り出したサンダルを回収して、片手に引っ掛けて歩く。待つつもりはないらしい。行くあてもないだろうに。少し歩みを早めた。

 突然海に行こうと言い出した。
水に濡れることを嫌うヤツだから、どういった風の吹き回しかはわからない。実際、波打ち際に近づこうとはしない。雨を降らさなかっただけ及第点だ。
 時折思い出したように足を止め、帽子のつばを軽くつまんで沖の方をじっと見つめている。
水面は曇り空を吸い込んだ色をして重くどこまでも続く。それでも強弱を変えながら打ち寄せる波の音は、どこか居心地が良い。不思議だ。
 女は屈んで砂浜をいじっていた。
剥き出しの肩はどこか自暴自棄に見える。
夏はもう終わるってのに。
「なんか拾ったのか。」
「シーグラス。見て、ねえ、蘭丸も拾って。」
立ち上がってグラスについた砂を払い、海に向かって数個、透かした。鋭いきらめきは失われたガラスが、ぼんやりと光を通す。柔らかにくすんだ青や緑、白。
琥珀糖に似ている。

♯

「疲れた！ 休憩。」
その場にふっと下ろそうとする女の腰を慌てて引き寄せる。
「あ、オイ待てそのまま座んな。汚れるだろ、白。」
「いいよ、別に。」
「良かねぇよ。あー、ここ座れ。」
海を正面にどすんと砂浜に胡座をかいて、自分の脚をぱんぱんと叩く。女は珍しく少し迷ったように目を動かしてから、じゃあ遠慮なく、そう言って近づいてくる。猫が居心地の良い場所を探すようにしばらくもぞもぞ動いていたが、俺の腿に横向きに座った。
乗っかってきたその質量は心許ない。
 日もだいぶ落ちた。目の前の体、低い体温を想像して思わずその肩を抱きそうになるが、俺の腕は宙をかいてそのまま後ろ手をつく。舌打ちを飲み込む。
 女は拾い集めたシーグラスを片手に乗せてしゃらしゃらやっている。ふいにその中から緑のをひとつ、つまみ上げた。同じ色が施された爪の先で歪な形をなぞっている。楽器を拒絶するような指先だと思った。言い訳か、恨みか、反抗かはわからない。
ただ、悲しみでなければいい。そう思う。
俺はお前の歌、嫌いじゃなかった。
固められた爪先で撫でられていたシーグラスが、当たり前のように、そのまま彼女の口元に運ばれた。小腹が空いたからポケットの飴を食べた、みたいに。
あまりにも自然の動作。
ああこいつはこれを食べて生きてんだ、だから、なんて、一瞬錯覚して、彼女の口内でからんと音が鳴って我に返る。

「おま、何してんだバカ！」

口の中でかろかろと転がしている。今にもごくんと上下しそうな喉が恐ろしい。
女はこちらに向かってわざと首を傾げて、いたずらに口角をあげた。そんな顔すんな。
角が丸くすり減っているとはいえ、かなりの大きさはあった。かちかち、奥歯で軽く噛む音がする。その食道を通るか確かめるように。喉元の赤いチョーカーが蠢く数秒後が脳裏をよぎって肝が冷える。
こいつならやりかねない。
女の下顎から頬にかけてをむぎゅ、と掴んだ。
苦しい、というよりは不服、の顔をしている。そんな顔すんな。
「っぶねーだろ！ 出せってんだよ！」
少し力を込めふフリをすれば嬉しそうに喉がくつくつ動いた。ダメ押しに睨みつける、降参、そんな風に手の甲をぺちぺち叩かれる。
「出すなら離す。」
手の中で女が頷く。そっと解放してやれば、グラスを軽く咥えたまま、ん、なんて案外おとなしく唇の隙間から出して見せた。気が変わらないうちに、それを指で引っ掴んでその辺に放り投げる。まさか俺にぶんどられるとは思っていなかったらしい、少し驚いて俺を見て、また笑った。
「しょっぱい、あんまりかも。」
「たりめーだろ馬鹿、二度とすんな。」
「嶺二なら良いって言う。」
「趣味悪ぃ。」
「あは、そうだね。」
軽くため息をついて海を見る。
ふ、と沈黙が落ちる。視線を女に戻すと、こちらを黙って見上げていた。お喋りな赤い口紅がすぐに動きだすかと思ったが、その気配はない。
女と俺の数十センチの距離が急に意識に入り込んでくる。布を隔ててやっと伝わった体温も、吸い込んだ空気の音も。心拍数に先に負けたのは俺だった。
「なんだよ。」
「ううん。」
ぴょんと俺の上から飛びあがってワンピースの裾を直した。本能は離れた人肌を寂しさと捉えて憎い。
俺も立ち上がり、誤魔化すように伸びをする。
数歩、歩いてからこちらを振り返った女を、潮風が煽る。

「ありがと蘭丸、嬉しかった。」

流れる真っ白なワンピース、風の行先を示す帽子の赤いリボン。
世界が音楽だとして。
俺は初めて世界の休符を聞いた。
この世って何小節で出来てるか知らない。
スローモーションなんて生やさしいもんじゃなく。
今。
お前が休符だったから。つらくてもうるさくてもおそろしくても、お前も音楽で。
だから俺にも必要で。

「帰ろっか。」

波の音。心臓、空、呼吸。
何か言わないといけなかった。お前が望んでる言葉と違うことくらいわかっているけれど。

「作ってやるよ、琥珀糖。」

分かり合えなくても良い、それでも人は信じ合える。同じじゃなくても。怯えていないで。そんな思いは、きっとまだ伝わらない。
「え、やった！ねえいつ？今日？」
「ハァ！？ガキかよ。」
「じゃあ明日？」
「だから急なんだよ、いつも。」
「蘭丸が作るって言った。」
「そりゃ作るけどよ……。」
きいきい言っているその肩に、俺のアウターを被せる。また不思議そうにこちらを振り返った。
らしくないのはどっちなんだろう。
「蘭丸っていい匂いする。」
きっと忘れられない。
それが少しだけ嬉しくて、ひどい怪我だと思った。 ]]>
		</content:encoded>
		<dc:subject>-</dc:subject>
		
		<dc:date>2025-11-06T23:28:23+09:00</dc:date>
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		<title>.  ミュージック・ミュージック(黒崎蘭丸)</title>

		<description>引き伸ばされて、裂ける。

 ベースの音…</description>
		<content:encoded>
			<![CDATA[ 引き伸ばされて、裂ける。

 ベースの音ってわかんない。
蘭丸がベースを爪弾いている。
何もわからなくなる。蘭丸が何か喋っているんだと思う、一生懸命、本音で、心のこと。
別の言語で話されてるみたい。これからもわからないんだろうな、何をやっても。だから。
「ねえ、オムライス食べたい。」
「お前転がり込んできて結局毎回飯かよ。……ちょっと待て。」
蘭丸がベースをスタンドに戻して、のしのし台所に向かっていく。
私はベースを少し睨んだ。お前のおしゃべりは終わり。
 型の落ちたオーブンレンジ、ご飯を解凍する音。
「オイ寝っ転がってねーで手伝え。」
「えー、蘭丸が作るのが美味しいのに。」
「うっせ、卵くらい誰がといたって変わんねぇよ。」
ぐうっと背伸びをした。目元にあてていた保冷剤はもうくたくたになっていた。

♭

 ダイニングテーブルの上に、次に蘭丸が立つステージのチラシが置いてあった。グループの活動が多くなった今も、蘭丸は合間を見つけてはこうして小さな箱でもソロライブを続けている。
 私をライブハウスに誘わない蘭丸は優しいと思う。
音でぎっしり埋まった密室。知らない人間と肌と肌を合わせて溺れる空間。楽器の音と人の匂いの中で、蘭丸の音を見つけられなかったらもっと。ひとりぼっちになってしまう。
きっとわかってほしいはずなのに。貴方の言語、そしてそれが輝く場所。
ごめんねって、口の中だけで呟く。
この四文字がどれだけ残酷か知ってるから。

「できたぞ、スプーン出しとけ。」

蘭丸の声は好きだ。
獣の唸りに似ている。優しい優しい地鳴り。
その声だけが、私の理解できる形になれる。私にわかる言語で、好きな音でやっと通じ合える。
「ハートとか描いてよ」
「かかねぇよ」
「そしたら猫ちゃんとか」
「ガラの問題じゃねぇ。」
「じゃあ私が書く、何がいい？」
「ァんでも良い。」
「ダメ、蘭丸が決めるの。」
「めんどくせぇ……んじゃテメーがネコ描け。」
「やっぱやめた、名前にする。」
「お前なあ！」
「ランランでい？」

蘭丸の音が聞こえる人がいるんだろうな。蘭丸の言葉がわかる人がいるんだろうな。ちょっとだけ羨ましいと思う。
いいな、私に聞こえない音、聞きたくない音。蘭丸が聞かせたい音。

「んで漢字で書くんだよ！」
「好きだから。」
「…………かけすぎだろうが。」
「本当だねえ」
私と蘭丸のオムライスを半分に割って、蘭の字を片方交換する。
でも、聞こえない方がきっと幸せ。
ごめんなさい。許さないで、でも寂しい。ごめんね。
幸せになってね。

「ねえ今日泊まっていい？」
「は？意味わかんねえ。」
「いいじゃん明日事務所行くし。こっちのが近いし。」
「ハァー……好きにしろ。」
「やった。蘭丸が床ね。」
「客側は言わねんだよそれ。」
「ふふ。」
「風呂は」
「済んでる、あっちで。」
「顔洗ったらもっかい冷やしとけよ、まだひでぇ顔してんぜ。」
サイアク、そう言いながら洗面台に向かう。その背にオムライスの半分の音。
「落ち着いたかよ。」
振り返りたくなかった。蘭丸がどんな顔してるか知りたくなくて。まっすぐ優しくて嫌だった。悪いのって私で。
がんばれ。
「平気。」
ふふんと笑って、その場でくるりと回った。蘭丸が近づいてくる気配を振り切るように歩く。弱くてごめんね。

「蘭丸って音楽みたい。」

うるさくて、全然わかれないのに鳴り止まない。でも、きっと誰かを救える。 ]]>
		</content:encoded>
		<dc:subject>-</dc:subject>
		
		<dc:date>2025-11-06T23:27:01+09:00</dc:date>
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		<title>.  刺創(寿嶺二)</title>

		<description>私はあなたを愛してる、でもあなたは。
…</description>
		<content:encoded>
			<![CDATA[ 私はあなたを愛してる、でもあなたは。

『来てた？』

 手の中の端末に、寂しさが震えて浮かび上がった。もう駅の方が近いような歩道の真ん中で、立ち止まり、夜の空気を吸い込む。夜風でも誤魔化せないくらいの熱が灯ったのがわかった。救えないなと思う。私の体はもと来た道に向きを変えて、小走りで進み出した。
街灯が私を責めるのに気づかないように、曖昧に流される未来を無視して。
嶺二のシャンプーの香りが、私の髪の先から流れる。
『いま出たばっか。コンビニで買ってくものある？』

 †

「ごめんね、呼び戻しちゃった。」
 嶺二が淹れてくれていた紅茶を飲みながら、もう一度彼が謝った。キームンの香りが鼻腔を満たす。
「ううん。私もまたお風呂勝手に借りちゃった。」
「今夜は泊まっていって。ね？」
するりと前髪を人差し指で掬われる。
心がくすぐられる、私はこれだけでいい。
返事の代わりに嶺二にきゅっと抱きついた。鼻先を埋めた彼のシャツに、知らないいろんな人やタバコの匂いがついていて嫌だった。
私の不機嫌を感じ取ったのかはわからない。背をそっと撫でられて、嶺二が離れていった。

 空のカップをシンクに置いてリビングへ戻る途中で、こちらに背を向けている嶺二が私の名を不意に呼んだ。
ねぇ、と間延びした語尾のはずなのに、空気がぴんと張るような感覚。

「最近、ランランと仲良しだよねえ。」

 彼の元へ向かう足が止まりそうになる。嶺二は振り返らない。どうしてそんなこと。
「そうかな、」
「うんうんっ、ランランからもお話聞くよ？」
 ソファに座る嶺二にゆっくり近づく。
横に並べば嶺二が私を見た。いつもの軽い口調と裏腹に、その目は笑っていない。
 冷たくて、私のことをただ反射している瞳。彼の虹彩には確かに私が映っているのに、私と視線は絡まない。
「蘭丸は、お友達だから。」
本当のことなのに、どの感情のせいで声が震えてるのかわからなかった。恐怖と焦り、そしてなぜか、ほの暗い嬉しさ。やっぱり私たちって同じ。分かり合えるはず。
嶺二は何を見ているんだろう。
嶺二の瞳って何色なんだろう。
 返事を待つほんの一瞬の沈黙を満たしたのは怖れだった。最初から愛されてなんかないって知ってるのに。
「っねえ、私、嶺二のことだけ、」
「あぁタンマタンマ！そういう意味で言ったんじゃないよ、ごめんね、ホント。」
縋るように溢れた言葉が遮られる。また言わせてもらえない。
「今日ロケ先でおっきなぬいぐるみ見つけてさーぁ、ぼくもランランも君のこと思い出したんだ。」
それで、ね？
 私を見つめる瞳は温度を取り戻している。彼の言葉は張り詰めた空気を知らんふりしてかき回す。
私の頬に伸びてきた大きな手のひらを拒めない。あたたかくて悲しかった。
 ねえ、砕けてしまったのは貴方なんでしょう。
嶺二の破片が刺さって痛い。
でも貴方の欠片なら。貴方も痛いなら。
「めんごめんご、お兄さん意地悪だったね？」
黙って首を横に振る。この痛みを誤魔化せるのも嶺二だけ。
「ほーら、おいで。」
広げられた腕に吸い込まれる。嶺二の膝の上に跨って向き合った。彼の首に腕を回す。
どうぞ、許してもらえるなら、君がお願いするなら。
そんな瞳。擦り寄ってくる鼻先。
 私たちが怖がっているものは同じなのに。
噛みつくようにキスを仕掛けた。
呼吸のタイミングをずらされた嶺二の反応が一瞬だけ遅れる。啄むように触れて、深めていく音。絡まる舌から体温が行き交う。
私たちに必要なのは体温や刺激の交換なんかじゃない。でもそれしか出来ないこともわかっている、私たちが怖がっているものが同じだから。
 チュ、わざとらしいリップ音を立てられた。おしまいの音。名残惜しくて喉が鳴った。
「シャワー浴びてくるね、待てる？」
「うん。」
「いい子。」
ベッドで待ってて。そう囁いて離れていく熱。
 私はソファに座り直して、 嶺二の紅茶のカップを片付けようと手を伸ばした、はずだった。
「あらら、どーしたの？」
立ち上がった嶺二のシャツの裾を掴んでいた。
眉を八の字に下げた彼が首を傾げる。
 私は嶺二を抱きしめていたいだけ。それ以外に望むことは何もないのに。嶺二のこと、抱きしめていられたらそれだけで良いのに。
その分深く深く刺さっても平気。
嶺二の破片が私に食い込んで埋まっても平気。
「私、嶺二とひとつになりたい。」
後悔した。いつもそう。
嶺二は本当の意味を理解してしまうから。
見上げた嶺二の瞳に私はいない。私と目が合うのは彼に反射した私。
「そうだね。」
 嶺二、そんな顔しないで、でも私にだけ見せて。 ]]>
		</content:encoded>
		<dc:subject>-</dc:subject>
		
		<dc:date>2025-11-06T23:25:42+09:00</dc:date>
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		<title>.  手負 (寿嶺二)</title>

		<description>貴方も私もきっとそう。

「嶺二？」
 …</description>
		<content:encoded>
			<![CDATA[ 貴方も私もきっとそう。

「嶺二？」
 真夜中だったと思う。もう朝の方が近いような。嶺二の家は重い遮光カーテンで囲われていて、いつだって昼間のようなリビングの照明が時間の感覚をあやふやにする。
ほとんど空っぽの冷蔵庫からオレンジジュースを取り出そうとして、返事がなかった。
嶺二はソファでうたた寝でもしているようだ。
 私は当然のように、台所の引き出しから包丁を取り出して彼に近寄った。そっとブランケットをかける時みたいに。愛の形が台所にあっただけ。
嶺二の太腿の上に跨って、静かに体重をかけていく。違和感には目を瞑る。そうやって一人と一人は息をしてきた。世界が見えすぎて恐ろしいから。
 生きているその顔に、やっぱりキスをしようか迷った。でもそれが嶺二の救いにならないことは、何十、何百と繰り返したから知っている。私たちは終わりにしなければいけない。
手入れの行き届いた包丁を、両手で握りしめて掲げる。質の良い真っ白な布、その下の皮膚一枚、そして私たちの思考より幾分か美しいだろう臓器の想像をする。
 ゆるやかに上下する腹部に狙いを定めて思い切り、振り下ろす。


目が合った。


振り下ろしたのは愛だと信じている。遅すぎたかもしれないし、早すぎたかもしれないけれど。
瞬間、痛みの形に歪んだ眉が美しかった。
こぷ、こぷ。どぷり。
呼吸に合わせて、世界と嶺二の隙間から赤があふれて私の手を濡らす。あたたかい。
私のせいで、そして私のために歪んだその顔はゆっくりと穏やかさを取り戻していく。
微かに口角が上がるのを見た。
 下がった眉の下、嶺二の瞼が持ち上がっていく。
永遠みたいな速度で。
そうして、もう一度目が合った。
やっと貴方の瞳の色を知る。安堵。
嶺二の目にあったのは間違いなく安堵で、愛されるってこういうことだって信じたかった。

ごぷり。

ぬるついた柄を掴み損ねて手が切れたが、もう痛いのは慣れた。
私の手のひらから流れ出たのは嶺二と同じ色だった。やっぱりそうじゃん。
混ざる。とける。流れる、まざる、溶ける。どこまで私で、どこまで嶺二だったんだろう。ながれてまざってとけていく、初めてひとつになった。はじめから同じのはずなのに。どうしてでしょうね。

「嶺二」

今度は上手く掴んで、思い切り引き抜く。
嶺二の腕がゆらりとこちらに向かってきて、私の頬に触れる。親指の腹で優しく撫でられる。
嶺二の形のいい唇が、言葉の形に動いて意味になった。
もう一度振り下ろした。
もう一度、嶺二の唇が同じ形に動いて、目を閉じる。
私の頬から魂が剥がれ落ちていくのが、ロマンチックなスローモーションに見えた。美しい肉塊。

 秒針が文字盤を滑る、カーテンの隙間が淡く光る。
温度を失っていく血溜まりと乾いてひりつく血液が、どちらのものかわからないことが救いのように思える。
握りしめた手は固まっていて、私の手の先ごと包丁になったみたいだ。刃先を自分に向ける。


ガチャン


聞き慣れた解錠音。そのせいで一瞬遅れてしまった。今なのに、今しかないのに動かない腕。ああ、ひどいのって誰。
私は嶺二をどうしてこんなに、愛してるんだろう。嶺二の匂いがする、ビートルの助手席を思い出す。
 土足のまま廊下をがつがつ走ってくる音。寝室の戸を開ける音。また足音。化け物に似ている花、その名を叫んでいる。
彼が走り抜ける廊下が終わらなければいいのに、彼がリビングのドアなんか開けなければいいのに。
明日なんて来なくていいのに。

ねえ同じ、赤い、赤い、私達の花言葉ってなんだっけ。 ]]>
		</content:encoded>
		<dc:subject>-</dc:subject>
		
		<dc:date>2025-09-11T23:45:26+09:00</dc:date>
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		<title>.   近くて遠い (立海3B)</title>

		<description>


なんて、たいして上手くもない所で…</description>
		<content:encoded>
			<![CDATA[ 


なんて、たいして上手くもない所で使われる。

「ま〜たここかよ。」
「まーたブンちゃん。」
またってお前のために来たんだろぃ、そう言ってガムの包みを差し出す赤髪に、手をひらひらさせた。なんとなく残念そうな顔をしながら、包みを開いて自分に放り込む。
くちゃくちゃ。
音もなく膨らむ緑の薄い膜。空は青い。丸井の白い、パンツの外に出したワイシャツがはたと揺れる。
「いま数学の時間だぜ、テスト近いしヤバくね？」
「あの先生、課題ワーク丸々出すからイケるじゃろ。」
「まー確かに。そういえばさ、」
また薄い球をつくってくちゃくちゃやってから続ける。
「変な噂で持ちきり。お前いつか学校やめんじゃねー？って。あんまサボるからさ。」
ちらりとこちらを見る紫が笑っている。
「さぁの。突然いなくなるかもしれんし、」
キーンコーン、カーン、コーン。
「お、授業終わったな。」
んーっ、気持ちよさそうに伸びをして、今度は大きな膜だ。
ぱちん。
で、なんだっけ。先を促すブンちゃんと、フェンスの外。嘘のようだ。あの夏も、これも。
開けっ放しだった屋上の扉から声がかかった。
「仁王！いるか！」
「うげ、真田だ。部活には早くねぇ？」
不満の形に歪めた口でまた緑色を膨らます。
「今日は丸井の四十九日だからな。早く行くぞ。」
まだ衣替えから日はそんなに経っていないが、マフラーを巻いた寒がりの幸村も階段登って来て俺に向かって手を振った。
手を振り返しながら、ひとりきりの屋上で呟く。
「高校も大学も一緒かも。」

 ]]>
		</content:encoded>
		<dc:subject>-</dc:subject>
		
		<dc:date>2020-03-11T02:16:58+09:00</dc:date>
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	<item rdf:about="https://letmeloveyou.novel.wox.cc/entry69.html">
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		<title>.   私とヤンと元帥(銀A)</title>

		<description>


スコーンをもっと作っておけばよか…</description>
		<content:encoded>
			<![CDATA[ 


スコーンをもっと作っておけばよかった。

血の上を歩いた猫を洗うのをキャゼルヌは面倒がるだろうから、元帥は洗濯ネットに入れて籠の中に入れておいた。さっきまで出せと鳴いていた彼も流石に疲れて諦めたらしい。
ユリアンに置き手紙を残そうか迷ったが、やめた。夕飯のありかくらいわかるだろう。彼は賢いのだ。
洗濯物をどうしよう。今日の世界は曇っているから、まだ乾いていないと思う。
それに洗濯籠には元帥を入れてあるから、だめだ。
恐ろしいことをしました。
蜂蜜のビンをしまっておくべきだった。出しっぱなしにしておくのと後で拭かなきゃならないなら前者の方が、良いかな。
部屋はいつも静かすぎて、一人分の鼓動が消えたのを感じるには充分すぎる。
どこまでも穏やかな表情にキスをしようか迷った。
私は血だまりに落ちた包丁を拾って、自分の首筋にあてる。
私は世界の、たかが数十年の平和すら願えない。彼が結局何のために願ったのかすら分かれない。私も紅茶が好きだった。
私はヤン・ウェンリーを殺しました。


 ]]>
		</content:encoded>
		<dc:subject>-</dc:subject>
		
		<dc:date>2020-03-11T02:12:43+09:00</dc:date>
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		<title>.   雪灯 (日宍)</title>

		<description>


まだ冬は居座る気があるらしい。
…</description>
		<content:encoded>
			<![CDATA[ 


まだ冬は居座る気があるらしい。

恋人の体温が高い。
「はい、お疲れ様です。」
「あっっちーー！！」
「日吉、俺何秒？俺何秒？」
へばっているくせに口だけは忙しなく動く向日さんに手元のストップウォッチを向ける。げー、という顔をしてジャージを脱ぎ、宍戸さんのタイムを測っていた忍足さんに投げた。
「亮ー！もう一本！もう一本！」
「おー。」
ワッとスタート地点に戻っていく元気な向日さんを見送りつつストップウォッチをリセットする。ふ、と駆け出そうとする宍戸さんと目が合う。彼の頭の上に電球が光るのが見える。
「若、手かしてくれ。」
「はあ。」
差し出した俺の左手をぱっと掴んで、そのまま自分の頬に当てた。
火照った宍戸さんの頬からじんと広がる熱が、指先の縛りを解いていく。
「ほんとお前手冷てーよな。あー、気持ちいい。」
色の違う宍戸さんの体温と俺の体温、瞬間的に互いを奪い合うように触れ合ったそれはすぐに混じり合って、二人の境界を曖昧にする。手の甲を包む傷のついた皮膚の暖かさ。頬のまだ熱い部分に俺の手をすり、とあてる仕草は、まるで犬か猫がもっと撫でろと催促しているようだった。
「あんたはあつすぎる。」
すっと右手を空いた頬に伸ばして熱いそれを包み込む。突然熱を奪われた左頬に一瞬見開かれた紫色の瞳を両手で引き寄せる。風を切って乾いた唇にキスをした。ちゅ、と小さく音を立ててまた距離を取り戻す唇、宍戸さんを離した両手はまだじんわりと暖かい。
「もう一本ですよ。頑張ってください。」
腕にぶら下がったストップウォッチを掴み直して、顎でどうぞと向日さんの方角を指す。
「あっ、え、お、おう。……さんきゅな！」
起きたことを理解してるのかしていないのか、今度はクエスチョンマークを落っことしながら走っていく。
「絶対ありがとう言うとこちゃうやろ……。」
「そうですね。」
一部始終を目撃していた忍足さんが向日さんのジャージを畳み終えた。スタートの合図を寄越せと宍戸さん達が手を振っている。
「日吉もようやるわ……。」
俺先輩やで、なんて言っている忍足さんの目は笑っている。この人とは気が合うのだ。手を挙げて合図を返す。
「まぁ、可愛いですからね。」


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		<dc:date>2020-03-11T02:10:55+09:00</dc:date>
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		<title>.   優しさと呼んで (忍宍)</title>

		<description>

俺のせいで迷わないように。

 片付…</description>
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			<![CDATA[ 

俺のせいで迷わないように。

 片付けきれていない、ポテトチップスの袋や空のペットボトル越し、液晶の笑い声に身を任せている。背は布張りの、この部屋にきて三年になる小さなソファに。
 宍戸のアパートは大学のキャンパスから一番近いとあって常に来訪者が絶えない。宍戸自体は物持ちが良い方ではあるものの、様々な客人により(中学から続くテニス部の面子が主なのではあるが)このソファカバーもカーペットも幾度となく芥川クリーニングの世話になって年月に馴染んでいる。
 テレビの前の、デジタル時計に内蔵された室温計が少し上がった。ついさっきまでほぼ同じタイミングで隣から聞こえていた笑い声の間隔があいていく。ふと見ると宍戸の頭はかくんかくんと船を漕いでいた。俺の視線に気づいた宍戸がぺちと自分の頰をはたく。
「あー、やべ。ねみ。」
「もう寝よか？」
「んー……なんかまだマジで寝るには早ぇっつーか……ちょっとだけ仮眠。」
よいしょとソファに腰掛けて手頃なクッションを探っている斜め上から、悪ぃな、と声がかかる。
「今のうちに先、風呂入れよ。」
くぁ、と欠伸をして俺に背を向け、ごろんと横たわる。お前が風呂終わったら起こして。そう言ってしんとする気配。
手元のリモコンでテレビの音量を数段階下げた。静けさが一歩、しかし確実に距離を詰めてくる。だんだん深くゆっくりになっていく宍戸の呼吸と弱まった電子の笑い声が静寂から俺の周りを守るように生きて、ほとんど死んでいる。
 だらだらと見続けている三時間スペシャルのトーク番組はいつのタイミングで消したって構わないのに、だからこそ電源ボタンに手が伸びない。自分の笑い声も、結局一人きりでこぼせる程ではないのだと知る。テレビ番組はそんな軽さで、自分の感情は重すぎる。だからいつだってやめていい。ただ好きなお笑い芸人が出ているから、なんとなく消せずにいるだけなのだ。明日には忘れてしまえるような小さな笑いのため。ようやく一人きりでくだらない話に思わず笑うため、今みたいに。
「ふふっ。」
起こしてしまっただろうか。
 狭いソファの上で背と膝を柔く曲げ、小さく呼吸に揺れる動物的な後ろ姿。にもかかわらず警戒心を解いてこちらに向いた背、その薄い布一枚越しの凹凸が本当に、だめだった。
眠る背の曲線に沿って灰のTシャツを小さく押し上げ、あるいはへこませてその形を浮かび上がらせる。
きっと忘れられない。一生ずっと、呪いのように。
今手を伸ばす先にある感触を知ってしまえば、その指先に全ての記憶がかき集められて詰め込まれる。脳に焼きついた今がフラッシュバックする。
この妙に暑い部屋の温度も、定位置のカーペットの取りきれなかったシミも、昔から変わらない柔軟剤の香り、二人だけの部屋に一人きりの虚しさや、気づき続けていた恋心もきっと全部。覚悟のない指先は弱かった。
 さっきまで部屋を占めようと潜んでいた静けさとは違う、何も聞こえない音がして、指の腹にはシャツ一枚に包まれた宍戸の体温が触れた。肩甲骨の間からゆっくりと指先を滑らせる。ごつ、ぼこ、そんな音がするような連なりを優しく。
あたたかな硬さをなぞっていく。
ざらりと柔らかい布の繊維が俺と宍戸を守っている。いきもののあたたかさを染み込ませたこれだけが。
はっとして触れた手を離し、テレビに目を向ける。神経を外側に引っ張ったのは自分のものと同じ着信音が聞こえたからだ。いつの間にか刑事ドラマの放送が始まっている。非通知からの着信を恐る恐るタップする若手女優の手元がアップになったところで、俺はテレビを消した。
静寂はわっと襲いかかってはこない。
小さく呼吸を続ける宍戸の背をもう一度見て、ソファの端にぐちゃっと置かれたブランケットをかけた。

シャワーを浴び終えて部屋に戻ると、宍戸は先程と同じ体勢で背を丸めていた。起こせと言われたので自分もソファに腰かけながら声をかける。
「宍戸」
「……なぁお前さ、」
テレビの電源を入れる前に言葉が返ってきた。
「お前彼女とかいんの。」
リモコンをテーブルの上に戻して、気づかれないように大きく息を吸いこんだ。音にする言葉と思考を切り離すのはずっと得意だった。
「おらんよ、宍戸も知ってるやん。」
「じゃあ気になってるやつとか……いや、あー……うん。」
宍戸がブランケットの礼を言いつつ起き上がった。
「なんや、らしくない質問して。」
悪い癖。心と癒着している部分を切り離せば、痛みを感じないはずなのだ。少なくとも、致命傷には至らない。自分も、相手も。
「そうかよ。」
わかっていた。いつものような、うるせーが返ってこないことも、嘘のつけない顔が何かを隠すように動くことも。
「風呂、空いたで。」
「おう。冷蔵庫に冷たいもん入ってる。」
「ん。」
 わからない。正しくないとは思わないが。俺が愛を伝えて何になるだろう、人を傷つけないことは上手くありたい。好きな人間に対してなら尚更。それだけのはずなのに、きっと忘れられない。


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		<dc:date>2020-03-11T02:08:58+09:00</dc:date>
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		<title>.   可愛い僕の可愛いに私はなれない(プリチャン/緑川さら)</title>

		<description>

忘れなくていいなんて、残酷なんじゃ…</description>
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			<![CDATA[ 

忘れなくていいなんて、残酷なんじゃないか。

「点灯の瞬間、見られなかったね。」
「仕方ないさ。たくさん買ったから。」
ふふ、そう笑って、抱えた紙袋を揺らした。北欧雑貨店で買ったがちゃがちゃした赤と緑のオーナメントたち。クラスのクリスマス会には多すぎたかもしれない。
キャンディーのような電飾で彩られたキラ宿の並木道の先に、黄金のツリーが煌めいているのが見えた。せっかく来たんだから近くまで見に行こう。可愛子ぶって手に取った、サンタ帽を被ったアルパカのぬいぐるみを抱き直して私が言った。

「さらがイメージモデルやる本店、大きなポスターが期間限定でしょ。それにあそこのグロスの新色もね、試したいの。」
「次の休み空けておくよ。そういえば、めるも行きたいって言ってたんだ。」
気付けばツリーはすぐ目の前にあった。救われた気持ち。
「ね、近くで見ると思ったより大きい。」
ずっとわかっていたけれども、わからないふりは上手だ。もうやめなければいけない。きっと。
綺麗だねぇ、なんて言い合って、しゃんしゃん鳴っているクリスマスソングと恋人たちや親友同士のざわつきが眩しい。
「ねぇ、」
私の名前の音がする。さらに顔を向けなければいけない。
「綺麗になったね。」
私を真っ直ぐに見つめた緋色の鉱石が柔らかく光って、どうしようもなかった。
終わりを感じるには充分過ぎる。
都会に雪は降れない。
「そうかな。」
思ったよりも震えた声が出なくて安心した。
さらのおかげで化粧を覚えた。可愛いあなたの隣で可愛くあろうとすることを、眩しいあなたに美しい女の子の姿を知った。さらのおかげで初めてが増えて、さらのおかげで綺麗になった。それ以上にはなれなかった。
「さらはいつだって可愛いよ。」
「はは、そうかい？ありがとう。」
「どういたしまして。」
「そう言われると、君が前は綺麗じゃなかったって言ったみたいになっちゃった。」
「実際そうでしょう？」
「違うさ。」
さらが真面目な声で否定したから、くすぐったくて笑ってしまった。さらもつられて笑った。

初めてバイトをしたのだって。理由なんて誰にも言えないような、ただの小さな恋だった。
公式の通販サイトで価格の手頃な順にタップしたネックレスの一覧を、私はいつまでも思い出すのだと思う。
私と会う時は必ず律儀に身につけてくれる、さらの首元でイルミネーションに4°Cが光っている。
ずっと勘違い出来てしまえるような冬の夜だ。

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		<dc:date>2020-01-09T09:54:28+09:00</dc:date>
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		<title>.   年賀状の(刀剣/陸奥守吉行)</title>

		<description>

私にはなにもないと思いたい。

「…</description>
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			<![CDATA[ 

私にはなにもないと思いたい。

「主ー！ねんがじょう、ちゅうのが届いたぜよ。」
ほれ、と陸奥守が差し出した数枚の葉書。
私宛に届いたもの、いや。父、母、私、弟、の順で、私たち一家に宛てた結果家族の一員として「私」が一応記載されているものを選んで母親が送ってきたものだ。小中学生時代に流行った友人間でのやりとりは、いつの間にか消えていった。消失を怖がる私にしては珍しく、寂しいとは思わない。
「ありがとう。」
陸奥守から受け取った年賀状をさくさくと目で追っていく。
家族ぐるみで付き合いのあった人間の社交辞令、第二子の出産報告、あぁこの人は今年も水墨画を描いている。
ふ、と最後の一枚で手が止まる。
昔好きだった男の子。家族写真の、彼のお母さんが昔と変わらなかったから気づいてしまったのだ。
「お、なかなかの男前じゃのう！」
よいしょと私の横に腰を下ろした陸奥守に寄りかかる。
「そうじゃないところが好きだったの。」
「？」
「昔はもっと、違ったの。」
頼りなくて、首だってこんな太くなかったし、細いフレームの眼鏡もかけてた。背だって平均よりは少し高い方だったけれど、それに相応しい筋肉もついていなかった。
「もう十年以上会ってないの。」
「人の子の成長は早いけぇのお。」
「嫌ね、私、嫌よ。」
陸奥守の手を握る。握り返してくる温度が、今日は気にならなかった。むしろ今日はそれが私を安心させたのだ。
「私も綺麗になっちゃった。」
陸奥守に向かい合うように、彼の膝の上に跨る。少し伸びた前髪を横に流してくれた。
「私、陸奥守のこと大好き。」
「おー、嬉しいのぉ。」
ニッと笑って、腰に回った手が優しく私を撫ぜた。ぎゅっと抱きつけば片方の手はよしよしと背をあやす。
「後でママに送り返しておいて。」
うんうんと頷く柔らかな陸奥守の髪が頬をくすぐる。
永遠を愛したかった、ずっと。
「主はいつだって綺麗ぜよ。」
「ふふ、陸奥守だぁいすき。」
私には永遠からの庇護がある。まだ生きていける。

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		<dc:date>2020-01-09T09:52:00+09:00</dc:date>
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		<title>.   invisible collar (跡宍)</title>

		<description>

煙たい空気に愛を見出せるか否か。
…</description>
		<content:encoded>
			<![CDATA[ 

煙たい空気に愛を見出せるか否か。

悪いくせがある。
人一倍声がデカいことはまぁ良い。悪いのはその声で、
「アァ！？合コンだぁ！？聞いてねぇぞ！」
電話の内容を復唱してしまうこと。

電話口からキンキンと溢れ出す薄っぺらい岳人の謝罪を聞きつつ横目でリビングの跡部を見た。
部屋の空気が変わらないのが逆に怖い。跡部の指先がスマートフォンの画面をタップする音が岳人の声より大きく聞こえる気がした。
ただの身内飲みだったはずのそれ。集合時間までもう時間がない。このギリギリのタイミングで真実を連絡してきた岳人はなかなかの策士である。こういうのだけは上手いんだ、昔から。
後日謝罪代わりの焼肉は期待できる、しかし、食い物では腹の虫が収まらない奴がいる。
「わーったよ！行きゃいんだろ……おう、またな。あぁ待て待て、ジロー拾ってきゃいんだな？ん、じゃ。」
感謝の言葉もそこそこに通話終了の音が鳴って、いよいよ沈黙が注ぎ込まれることになる。
沈黙に堪え性がないのも困りものだと思う。
「あー、てわけでよ、ちょっと行ってくるな。」
サイフとスマホをポケットに忙しなく突っ込み車の鍵をがちゃがちゃとキッチンのカウンターで探す俺を、跡部の鼻にかかる笑いが呼んだ。
「いいじゃねーの、たまにはメス猫とも飲んでこいよ。」
飼い主様が許可してやる。
そう言って、俺の車の鍵についているストラップを指にかけてくるくる回した。
誰が飼い主サマだよ、軽く跡部の肩を叩いてから鍵に伸ばした手をふいっと避けらる。するりと首にまわる跡部のしなやかな腕。
なんだよ、言葉は飲み込まれた。跡部の中にか、俺の中にかはわからないが。
「ん、ん……ちゅ、」
思わず目を瞑ってしまうほどの心地良さ、舌を追いかけてしまう自分の素直さが憎い。
「……ぷは。」
「いってらっしゃい、My sweet.」
「……バカ。」
跡部が投げた鍵を受け取って唇を拭う。
ずるいヤツ、二次会には期待できそうにない。

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		<dc:date>2020-01-09T09:50:01+09:00</dc:date>
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		<title>.   瞬(跡宍)</title>

		<description>

まだ夏に恋をしているのだろうか。
…</description>
		<content:encoded>
			<![CDATA[ 

まだ夏に恋をしているのだろうか。

「俺がテニスやめたらどうする。」
言葉になった白い息は目の前で消えていったのに、ボールの行く先を捉えた瞳はこちらに向いた。
きんと冷えたナイターコート、俺が声に続けたショットが宍戸の半歩先の空気を切り裂いた。
フェンスにぶつかって転がるのをやめたテニスボール。
したことなどない約束を、確かに二人は覚えている。
「お前より強くなる。」
冬の空気は澄みすぎる。
都会に雪は降らない。
「それだけだろ。」
砂糖を零した夜空を飛行機が滑っていく。宍戸のサーブの音からまた始まって、まだ明日の気配はしない。

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		</content:encoded>
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		<dc:date>2020-01-09T09:47:28+09:00</dc:date>
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		<title>.  巧遅な２人 (日宍)</title>

		<description>

明日の約束が今日になる。

「入れ…</description>
		<content:encoded>
			<![CDATA[ 

明日の約束が今日になる。

「入れよ、あんま綺麗じゃねーけど。」
これでも掃除したんだぜ、そう言って玄関に手をかける。そうだ、今日こそは。
「お邪魔します。」
決意を胸に、宍戸さんの引いたドアの向こうに声をかけた。俺を待ち受けていたのは玄関マットにスンと座ったビーグル犬。
目が合う。
瞬間、ギャンと吠えてびょっと立ち上がった。
「こら！チーズ！！」
飼い主に鋭い叱責を受けた犬は俺に飛びつくすんでのところで身を翻し、すたんと地面に降り立った。
「悪いな若。お前の顔、怒ってるみたいに見えたってさ。」
「すみませんね、目つき悪くて。」
にっと笑った宍戸さんが俺の頰を片方つまんで引っ張った。不機嫌な表情をつくって見せれば、悪ぃ悪ぃと離した手で頰をぺちぺち叩かれる。そこから広がるじわりとした熱は痛みではない。

先に部屋入ってろ、そう台所から叫ばれたので階段を登る。食玩のおまけシールのたくさん貼られた方のドアをガチャリと開けて、宍戸さんの匂いがした。カーペットの上にテキトーに座っておくべきか、いや、ベッドに腰かけても……
「若！！！！氷いるか？」
「っ結構です！」
突然階下から爆音で呼びかけられたから、声が裏返るかと思った。あの人は心臓に悪い。大人しく床に胡座をかいて座る。いつから見ていたのか、チーズが部屋の扉の前に伏せて不思議そうな目をしている。

「なんだベッド座って良いぜ。あと家に普通の煎餅しかなかった。」
足で扉を閉めた宍戸さんが、ローテーブルに麦茶のカップと個装された醤油煎餅をガサッと置いた。
「お気遣いありがとうございます。」
「おう、でよ、これ前言ってたテニス誌の……」
そこからは、まぁ、なんだ。
いつも通りで悪いか。
二つの秒針が急かすように走る。急かすくせにちっとも待ってはくれないし、むしろいつもより早く進んでいるに違いない。意地の悪い時計だ。
 プラスチック包装のゴミは溜まって、麦茶は二杯目、いや、三杯目だったかもしれない。テニス雑誌はバックナンバーまで読み終えたし、宿題だって中途半端に手をつけた。
お行儀の良すぎる恋は厄介だ。
 夕陽が部屋を満たし始める。本当に、また時間がない。
「あの、」
「ん？トイレ？」
「……違いますよ。」
はは、だよな、そう笑った宍戸さんの耳にふわっと桃がさしたのは夕陽のせいじゃない。ベッドにもたれさせた宍戸さんの背は浮かない。
床に放り出されている手を柔らかく握る。俺より高い体温をもったそれが握り返してくる。
お互いに手の感触を確かめながら、ゆっくりくちづける。触れるだけの挨拶のようなそれ。
「宍戸さん、恥ずかしいんで目閉じて貰えますか。」
「え、あ、おう……！」
ちゅ。
今度はリップ音を立てて、宍戸さんは薄く目を瞑った。今度は秒針より早く、いや、やっと時計が遅く進み始めたのかもしれない。
「ん、…………んっ……。」
 だんだんと繋いだ指が絡み合ってくる。喉から響くくぐもった音を俺が飲み込んでやって、遠慮がちに舌が触れた。それだけでじんと頭に甘い音がする。
もう一度、今度は深く……
「亮ー！！お友達来てるの？チーズの散歩は？」
「んっわ！！いっ、今から行く！！！！」
 耳元でガンと響く慌てた宍戸さんの声、一気に真っ赤に染まる二人の顔を夕陽のせいにしたい。チーズが外からガリガリと扉を引っかいている。
「……そろそろおいとまします。」
「飯、食ってく？」
「いや、今日は遠慮します。また今度。」
「そっか。じゃあまた来いよ。えっと……」
宍戸さんがまだ繋がっている手をちらと見る。
ちゅっ、宍戸さんの唇に音を立ててから立ち上がってスクールバッグを拾う。すぐに背を向けたからどんな顔をしているかは知らない。
「途中まで一緒に行こうぜ。あと、明日の朝も待ってる。」
後ろからわしわしと頭を撫でられた。暖かい。
「はい。」

 分かれ道で手を振る宍戸さんに会釈をして、沈みかけた日に歩き出す。今日も同じだ、そしてまた、また今度が許された。
触れ合った唇を指先でなぞる。明日は彼よりも早くコートに行こう。

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