忘れなくていいなんて、残酷なんじゃないか。

「点灯の瞬間、見られなかったね。」
「仕方ないさ。たくさん買ったから。」
ふふ、そう笑って、抱えた紙袋を揺らした。北欧雑貨店で買ったがちゃがちゃした赤と緑のオーナメントたち。クラスのクリスマス会には多すぎたかもしれない。
キャンディーのような電飾で彩られたキラ宿の並木道の先に、黄金のツリーが煌めいているのが見えた。せっかく来たんだから近くまで見に行こう。可愛子ぶって手に取った、サンタ帽を被ったアルパカのぬいぐるみを抱き直して私が言った。

「さらがイメージモデルやる本店、大きなポスターが期間限定でしょ。それにあそこのグロスの新色もね、試したいの。」
「次の休み空けておくよ。そういえば、めるも行きたいって言ってたんだ。」
気付けばツリーはすぐ目の前にあった。救われた気持ち。
「ね、近くで見ると思ったより大きい。」
ずっとわかっていたけれども、わからないふりは上手だ。もうやめなければいけない。きっと。
綺麗だねぇ、なんて言い合って、しゃんしゃん鳴っているクリスマスソングと恋人たちや親友同士のざわつきが眩しい。
「ねぇ、」
私の名前の音がする。さらに顔を向けなければいけない。
「綺麗になったね。」
私を真っ直ぐに見つめた緋色の鉱石が柔らかく光って、どうしようもなかった。
終わりを感じるには充分過ぎる。
都会に雪は降れない。
「そうかな。」
思ったよりも震えた声が出なくて安心した。
さらのおかげで化粧を覚えた。可愛いあなたの隣で可愛くあろうとすることを、眩しいあなたに美しい女の子の姿を知った。さらのおかげで初めてが増えて、さらのおかげで綺麗になった。それ以上にはなれなかった。
「さらはいつだって可愛いよ。」
「はは、そうかい?ありがとう。」
「どういたしまして。」
「そう言われると、君が前は綺麗じゃなかったって言ったみたいになっちゃった。」
「実際そうでしょう?」
「違うさ。」
さらが真面目な声で否定したから、くすぐったくて笑ってしまった。さらもつられて笑った。

初めてバイトをしたのだって。理由なんて誰にも言えないような、ただの小さな恋だった。
公式の通販サイトで価格の手頃な順にタップしたネックレスの一覧を、私はいつまでも思い出すのだと思う。
私と会う時は必ず律儀に身につけてくれる、さらの首元でイルミネーションに4°Cが光っている。
ずっと勘違い出来てしまえるような冬の夜だ。

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