永遠を望み急ぐと碌なことがない。

「先刻の戦績と資材の残量をまとめておいた。目を通しておけよ。」
手渡された分厚い紙の束にはすらすらと美しい墨が意味をかたどってきちんと並べられている。人間のときと変わらない蓮二の字。
「そうだな、今度はあの陣形を変えて短刀を…」
ぶつぶつと次の戦略を考えて、壁にかかった黒板を埋めていく。人間のときと変わらない分析癖、立海の参謀は健在だ。
「うむ、当分はこれで良いだろう。主。」
これは違う。人間のときと違う柳蓮二。
「ねぇ、その呼び方やめてよ。」
柳蓮二は死んだ。私の愛しい人、私を愛しい人。しかし私は審神者だ。柳蓮二の魂を呼び戻して無銘の刀に定着させることくらい造作もない。柳蓮二は付喪神になった。
「何故だ?」
頰を膨らませて尖った声を出し、私はあなたのせいで不機嫌ですよと示せば困ったように笑って私の横に腰をおろす。蓮二の手が頭を撫ぜた。
「何故って。」
「お前は俺の主人だ、そうだろう?」
「そうだけれど、違うわ」
キスして、蓮二の首に腕を回してそう強請る。くすりと鼻の先に蓮二の笑みがこぼれておちた。ゆっくりと優しく触れた唇に安堵する。焦らされるつもりなんてさらさらない、薄く開かれた口の隙間から舌を絡ませる。くちゅりとわざと音を立てれば、蓮二の大きくてしなやかな指が私の髪を梳き通って首を抱き寄せた。満足よ、そう目を閉じればもっと深く熱が注がれる。
蓮二に嫌われたら生きていけない。愛しているのだもの。愛されていたのだもの。
神様はきっと死なない。いつか死ぬ私がつくったけれどきっと死なない。
蓮二が神様になんてならなければ私は柳蓮二と生きていけたかもしれない、柳蓮二として私の中で一緒に、姿はなくとも蓮二の中で私もきっと永遠に。
「秦の始皇帝は偉大だな。」
私の唇をそっと親指の腹でなぞった蓮二が呟く。
「どういう意味よ。」
いや、何でもないことだ、そう言った蓮二がもう一度私にキスをする。
「さぁ、もう遅い。寝室へ行こう、あるじ。」
私の愛した柳蓮二。私の愛せない柳蓮二。
私を愛した柳蓮二。私を せない柳蓮二。
わかっている。昔と同じじゃない。姿形も変わらない、性質だって記憶だって変わらない。2人で行ったお店も心の中を読めたような言動も人間のときと同じ。優しく頰に触れる指の動きも唇に感じる体温も全部。だが確実に何かは大きく違う。変わってしまったものに気づきたくない、間違っていることに気づきたくない、私は蓮二との永遠が欲しかっただけ、ずっと恋人と生きていきたかっただけ。それの何が悪いというの。
でも1つだけわかる。これだけは。

私は生きていける、柳蓮二とずっと。
私はもう生きていけない、柳蓮二と。
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