「言葉は呪いね。」

「そうとも言えるな。」
昨日のケーキの残りを全て食べ終えてしまって、蓮二がミルクティーのおかわりをつくった。両手に持ったマグカップをテーブルに置いた蓮二の手を、取った。
「踊ろう、意味のないことがしたい。」
リビングへ蓮二の手を引いた。
「まずはお辞儀から。」
わざとらしくスカートをつまむフリをして、あなたも、と目で合図した。やれやれといった風に恭しくお辞儀をして私の腰に回った手に満足して、一歩踏み出す。
時計の針の滑る音と2人がカーペットを踏むリズムだけがあって、ダイニングテーブルの上で湯気がのぼっている。
「捕まえて。」
蓮二の腕から抜けて、ソファにぴょんと飛び乗った。目線が少し私の方が高くなる。私の左手を優しくとった蓮二が手の甲に口づけた。蓮二の首に抱きついた私の体を抱いて、床にそっと下ろす。またワルツの音がカーペットから聞こえる。
「次はキスをするわ。」
ぴたりと動きを止めた蓮二が私の片頬に触れた。キスの間合いに入る前に、私は蓮二の胸に顔を埋めて抱きついた。
「誕生日だったの、」
細い煙のような声。私と蓮二の身長差の隙間に消えてしまいそうな言葉を、蓮二は黙って聞いてくれる。
「誕生日だったのよ。好きな人が好きだった人の。」
もう泣けもしない。不幸さえ信じることに疲れた。
「蓮二、」
ミルクティーが冷めてしまう。
「貴方は本当のキスをする?」
「確かめてみるといい。」
暖かな手のひらが見えない涙を拭って、私と蓮二の唇が触れ合った。
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