ぼきん、ぱちっ、じゃり。

飴玉をすぐに噛み砕く癖がある。
口の中が寂しくて放り込んだ大きな飴玉、中でころころ転がして上顎で舌に押し付けちゅうと吸う。初恋の味を楽しむのもそこそこにして、奥歯に挟んで噛み合わせ確かめる。もう少しだ。もう一度舌で撫でてやる。今度は前歯で何度かノックして、ううん良い具合。奥歯に思い切り力を込めて、ぽくんっ、綺麗に真っ二つになったそれをさらに割っていく。小さな欠片がぱきりと砕け、砂の音を立てて消えていく。

ぽくっ、かりかり、しゃら。

音が空っぽになって、飴玉が消えて、うるさいほどにリビングに静寂が訪れた。膝の上からなくなった音に気がついて、蓮二が本を置いて私を見下ろした。
「もう食べたのか。」
蓮二の言葉の隙間でからんと音が鳴った。
うん、頷いて体を起こし蓮二に跨る。ちょんちょんと唇に挨拶をしてにやりと笑って見せれば、やれやれといった風に小さく溜息をついた。
「桃だ。」
「あぁ。」
唇を合わせて整った歯列の間に舌を滑り込ませる。まだ大きな飴玉に舌先が触れた。これちょーだい、ちろちろと舐めてみると飴玉がくいと舌を押してきた。自分の口内に招き入れて、そこから引いた透明な糸が切れないほどにほんの少しだけ唇を離す。砂糖と甘味料と、蓮二の体液で甘ったるい粘度をもった飴玉。たっぷり私の中で転がして、また口付ける。それから何度か飴玉は私と蓮二の間を行き来して、かちりかちりと歯に当たって音をたてた。

ぱちん。

ついに私が噛み砕いた飴玉は2人ぶんの甘さを孕んで消えた。
蓮二の首筋に柔らかく噛み付いて、彼の手が私の頭を撫ぜた。
「蓮二、貴方と生きられて嬉しい。」
「そうか。」
下から掬うように唇を食んで、蓮二の方から潜り込んできた熱い舌に応える。舌が甘くて甘くてぴりぴりする。息継ぎの空間で蓮二の瞳を見上げた。
「お誕生日おめでとう」
はぁ、苦しいほどの愛おしさを吐いて続ける。
「愛してるわ、蓮二。」
「ありがとう、俺もだ。」
もう一度深く塞がれた唇で、私は愛を感じる。
生まれてきてくれて嬉しい、ねぇ、蓮二。
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