何がわかるっていうんだろうか。

コチュジャンを2、3杯落として、銀のスプーンで掻き回して目の前の肉が焼けるのを待っている。ナムルに隠れていた白米がもりっと現れて、赤いオレンジ色に染まって戻る。
繰り返し。
外は土砂降りで、雲が仁王くんと同じ色。ずっと続いているこの音は雨が打つ音かも、カルビが食べ頃になっていく音かもしれない。
どちらが誘ったのだったか、私は焼肉はあまり好きじゃないんだけれども。どちらが、いや、もうそんなことは思い出せなくていいこと。どちらでも構わない。どちらが言っても良かったし、どちらも言わなくても良かった。
程よく焼かれた肉を3枚、私の皿に寄越した。タレの表面に丸く、肉を中心に油が薄く膜をつくる。
「ありがとう。」
「ん。」
仁王くんは塩キャベツを頼んだ、彼は野菜をあまり好きではないけれど。
タレに浸かった肉をビビンバの皿に移して並べ、米と野菜を包んで食べる。ぐちゅ、とか、しゃり、とか音がした。
なんの話だって出来た。雨が強いだとか、部活の調子はどうかとか、ご飯が美味しいとか、今日の服だとか、レポートの進捗だとか。どうでもいいこと、すぐに消えて悲しくない言葉。嘘でもいいこと、でも大切なやりとり。でも私たちは話さなかった。なんでもない会話っていうのは、お互いにハッピーな時かもしくはどちらかがハッピーで、どちらかがアンハッピーな時にしか生まれないのだ。だから私たちは話さなかった。
雨は強くなったり弱くなったりして、隣の客はいつの間にか家族連れになっていた。私は肉をあまり乗せないビビンバを食べていて、塩キャベツは渋々という感じで減っていく。
網に残った脂に火がついた。かぶせた氷が奇妙な粘度でゆっくり消えていくのを2人で、見ていた。
「あなたも悲しいの」
喉が震えて引きつって、涙を無理矢理飲み込んだ時みたいな音が出た。びっくりした。私はこんなところで人の前で泣けてしまいそうになる人だったのか。
言わないでも良かった、言わなくて良かった。くだらない会話よりも意味のある言葉だけれども、そんなものよりもいらない言葉だから。

「うん。」

あぁ、あぁ。
私たちはどうしようもない。悲しくて悲しくてたまらない。悲しくて、どうしようもない。仁王くんが残りの生肉を網に乗せた。私たちは強くない。強くないんだよ。
「そう。」
誰でもいい、誰かとキスがしたい。そう思った。
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