綺麗だった。
一目惚れだった。

切れ長の目尻と薄い瞼の中に埋め込まれたその目を私は見た。
ある時は屋上で。青く脈打つ血の管を浮かせた瞼で猫のように細められる眼房を見た。
ある時はコートで。ボールの行く先を捕らえんとめいっぱいに見開かれた瞳孔を見た。
目の中の空に住んでいる瞳孔が大きくなり、また小さくなる。その動きが、薄い虹彩の中ではよくわかる。
その繊細なガラス玉に映った物は枯れた花でさえも美しくみせる。草木は潤いを取り戻し、野良猫は優しさを、曇り空は溶けて青空に変わる。
触れたらぱちりと割れてしまいそうな角膜の奥、太陽の光を受けて透き通る虹彩が青く蒼く碧く色を変えていくのだ。
水をたっぷり含んだ筆でかきまわせた快晴の空を、蛍の集う小さな川に映り込んだ深緑の森を、海に熱い星屑が浮かんだ部分だけを掬いあげ注がれる水を、全て押し込め閉じ込めて丁寧に磨きあげたその玉の美しさたるや!
ずっと吸い込まれていたい、その瞳の中に。一生煌めかせていたい、その瞳の中を。
あぁ、欲しい。
こんなにも愛おしく心臓を揺さぶる透明な眼球を、私は知らない。



こつこつ、爪の先で瓶を鳴らす。
指先にガラスの振動がたっぷりの重い液体を鈍く伝える。底にある球がゆるりと揺れた。
仁王くんの目が、私のコレクションの中で1番あおい。
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