自分の傷は自分で癒せる。
ずっとそうして生きてきた。
もちろん人と支え合って励ましあって守られてきた。それにしたって、(自分で言うのもどうかとは思うが)自分の問題は自分で解決してきたつもりだ。
これからもそうやって生きていく。
俺もお前も。

真夏だからと開けっ放しにしている窓から思いがけず冷たい風が入ってきた。窓を閉めるために体を起こすのも面倒で、足下にわだかまっているタオルケットを引き寄せる。枕に鼻を押し付けた。
月が綺麗で、星は見えない。風は無愛想で、台所の冷蔵庫からいつもは気にならないぶーんという音が聞こえる。体は重くてたまらないのにベッドに思うように沈み込んでいかなくて何度か寝返りをうってみた。特に意味もなくスマホを開き、閉じる。息を大きく吸って少し止める。ため息を吐く時みたいに、小さく音を出しながら全部吐く。タオルケットを口元まで引き上げ、ぎゅっとまるまる。
なんでこんなに寒いんだろう。
どうして俺はこんなに、目を瞑るのが億劫なんだろう。
カチリ。
古いCDプレイヤーの再生ボタンの音がして、オルゴールの音色が奏でるメロディーが流れ出してきた。跡部の好きな映画のサウンドトラック。静かな足音も近づいてきて、俺の背中側のベッドが沈んだ。
あやすように肩を撫でられ、背中に暖かい熱が重なる。脇腹のあたりから跡部の腕がするりと抜けて俺の心臓の音を確かめるように手のひらが胸に当てられ、柔らかく抱かれる。
跡部は何も言わない。
ただ跡部の体温が暖かい。落ち着いた呼吸とオルゴール、時折寝かしつけるように胸をとんとんと叩く振動。
言葉のない心地良さを俺は愛しく思う。
慰めの、同情の言葉はいらない。ずっと奥に染み渡るような暖かい静寂が優しい。
ゆっくり体の向きを変えて、跡部の胸に顔を押し付けた。甘ったるいボディソープの香りが鼻腔を満たして、心臓は跡部の音がした。背中に回された手が少し乱れたタオルケットをかけ直してくれる。
大きく息を吐いて、ゆっくり目を閉じた。

自分の傷は自分で癒せる。
ずっとそうして生きてきた。
でもこれからは、そこにお前がいても良いと思う。
お前もそう思ってくれたら、嬉しい。
スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。