俺と桃城の朝は早い。

ジリジリジリジリ、これは俺の時計。
びよよよんびよん、これはバカの携帯。
ガバッと同時にベッドから飛び跳ねる。
「おはようマムシ!!!」
「マムシって言うな。おはよう」
「今日は俺の勝ちだろ」
「馬鹿野朗、同時だったろうが」
しかもどっちかっつったら俺の方が早ぇ、そう吐き捨てて昨晩きっちり畳んで準備して置いたジャージを取りに行く。後ろで桃城が何か言ったが無視した。
前のチャックを上げながらカーテンを開ける。まだ日は完全に登っていない。ベランダに来ている雀が2、3羽丸くなって身を寄せている。洗面所で冷てー!という絶叫が聞こえたので早く代われと怒鳴りかえした。雀が驚いて逃げた。
桃城と入れ替わって洗面所の蛇口を捻る。氷水のような温度を手に掬って顔を洗った。タオルで顔を拭いていると後ろからにゅっと手が伸びてピンク色の歯ブラシをひっ掴み、しゃこしゃこと音を立て始めた。隣の歯ブラシをとって口に突っ込みながら桃城を睨む。ふふんと鼻で笑ったのでお互いに睨み合いながらブラシを持つ手を速める。
「おいどけ、うがいできねぇ」
「せめぇから仕方ねーだろ!」
ギチギチと力比べをしながら狭い洗面台に泡を吐き出して、ほとんど同時にダッシュする。僅差で先に玄関に到達した桃城が俺のスニーカーを片方掴んで少し離れた場所に放った。
「ふざけんな汚ぇぞ桃城!!!」
「昨日はお前が直前にゴミ袋取って来いとか言ったろ!」
「仕方ねぇだろゴミの日だったんだぞ!」
ぎぎぎぎ、としばらく胸ぐらを掴みあってから、フン!と同時に顔を逸らす。
先に靴を履き終えた桃城がふと思い出したように声をかけて来た。
「おい海堂、」
「あァ?」
鼻先でちゅっと軽い音がした。
桃城がニッと笑った。‪
「は…?」
「っしゃ俺がいちばーん!」
「オ、オイてめぇ!!!!」
桃城が開け放った安アパートのドア。鋭く吹き込む風が火照った頬と鼻先に心地よい。近所迷惑になるから勢いよく開けんなっつったろ馬鹿野朗。まぁ、
「こんな毎日も悪くねぇ、…かもな」
中学時代からなんも変わりやしねぇ。
カンカンと音を立てて階段を駆け下りる音を、今日は俺も追っていく。すぐに追いついて背中を殴り、スピードを上げた。
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