忙しい朝なんていらない。
恋人のかけるアラームはいつまでたっても飾りのない電子音だ。
そのくせ爆音なのだからたまったものじゃない。結局停止ボタンをタップするのは俺なのだから尚更。
やっと野鳥のさえずりだけの世界で隣に眠る宍戸をゆり起こす。ん、と篭った朝の呻きが鼻に抜けた。
「…………残ってる。」
薄っすらと覗いた紫がぽつりと、しっかりと呟いた。
「アン?」
「お前が、俺ん中。まだ。」
もぞもぞとシーツの中を這って俺の枕を引き寄せた。昨日こいつの意識のあるうちに後処理はしたはずで、大方まだ寝ぼけているのだろう。朝飯だ、起きろと枕を引っぺがしてみた。
現れた顔を見て後悔した。朝飯が昼食になりそうだ。
「お前の中には俺、まだ残ってる……か?」
ずくんと心臓が動き始める。起き抜けに一杯水を飲んだ時のそれとは比べ物にならない、俺にもわかった。
「あぁ、残ってる。」
宍戸の腕が俺の首に回るのと同時に唇同士が触れる。宍戸の残りと俺の残りが少しずつ、少しずつ溶けていくようだ。
まだ残ってる。俺にもお前が、お前にも俺が残ってる。
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