取り返しのつかないことって、本当にある。

季節外れの雪が降っていて、近くのファミリーレストランはドリンクバーに群がる子供達で騒がしい。
約束の時間の二十分も前に来た謙也は、食べ終えたハンバーグステーキのナイフを握っている。
「少しの時間は、思い通りだったわ。」
私は続ける。もうルイボスティーは冷めた。
「蔵ノ介は私だけを見たし、久しぶりに二人きりだった。とっても嬉しかったの。」
謙也と話すのは好きだ。表情が正直で、今だって呼吸を忘れたような顔をしてる。たぶん、少し前の話を咀嚼するのにも時間を要してる。
「でも彼が車椅子テニスの選手になるって言うから、」
謙也の破いたストローの袋を折る。
「だから今度は腕しかないって思ったの。」
ついに全てを理解した謙也の目から涙がぼろっと落ちる。
可哀想だと思う。
計画は成功だった。雇った男が逃走用の車のナンバーを控えられていたことと、主犯とついでに前の計画も警察に簡単に喋ったこと以外は。
「……殺してやりたい…………!」
ぐしゃぐしゃにしかめた顔で喉奥から振り絞った声。指が白くなるほどに握りしめられたステーキナイフ。
そんな彼に何が出来るだろうか。
それ一つでなんだってできるのに。
「やっぱりそうよね、あんたは。」
カランと床が鳴って、震える空の手は優しい。
「蔵ノ介をよろしくね、愛してるって伝えて。」

もうパトカーのサイレンが近い。
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