店の外に出ると、音は冬に吸い込まれていた。寄り添って話すカップルの会話が秘密ごとのようだ。微かに聞こえてくるのは街の雪を踏む足音、屋根が白く染まる音と、
「少し寄り道するか。」
一番近くにいるこいつの音。
そんな世界で心地が良かった。
まだクリスマスの色が抜けていない街並み。木に散りばめられた電飾がうっすら雪に包まれ、内側からふわっと光る。古びたおもちゃ屋のショウウィンドウの中では冬とぬいぐるみの間を機関車がぐるぐる回っている。ジングルベルも聖歌も聞こえない夜。サンタクロースの正体を、きっと皆知っている。そんな幸せに満ちている。
しかし、俺にそんな感覚に浸る時間はないらしい。 薄く地面に張った氷に取られた足は急に摩擦を無くして地面を掴み損ねた。
「うおっ!」
「おっと。」
バランスを取ろうと本能が無駄に広げたらしい腕を跡部が力強く引き寄せた。
「大丈夫か?」
きっと、こういう所だ。
「おう…せんきゅ。」
跡部の腕に体重をかけたまま、ゆっくり歩き出す。
あたたかなオレンジの街灯の点々を辿るようにずっと歩く。呼吸の見える空気。俺の心臓の音の形に揺れるコート。
「亮、」
雪の音かと思った。小さくて聞こえない、でも確かな質量を持つ。
「言わなくていい。」
マフラーをぐいと引き寄せて跡部にキスをした。柔らかな氷。音を立てずに距離をつくった。その唇を、舌先でそっとなぞる。しんと冷たい味がする。
「こういうことだろ。」
澄んだ夜空の星は、跡部の氷に吸い込まれていく。ちりちり燃える瞳の奥に。
「ふっ、俺はダセェなって言おうとしたんだが。」
「なっ……!」
くくっと肩を震わせた跡部が、俺のなぞったあとをぺろりと舐めた。
「冗談だ。」
マフラーで首を絞めてやる前に跡部からキスがおりてきた。予想通りだったから目瞑ってやる。
愛を紡ぐことを教えてくれたのは跡部だ。俺が伝えられるのは、これくらい。