宍戸の気を散らしていたバラエティー番組はいつの間にか週末の報道番組に変わっていた。たいして2人の間から大きな音は上がっていないはずだが、アナウンサーの声などとうの昔に聞こえなくなった。
ただ目の前のキスを味わうのに世の中の物騒も、いつもサウンドトラックのチョイスに迷うしゃれたBGMも無意味だと知る。
決して艶のいいとはいえない宍戸の唇が俺の唇に優しく触れては離れ、また戻ってくる。手入れの行き届いた俺様の唇の感触を気に入っているらしい。すっかり滑らかな花弁に口づける心地良さの虜になったようで、もう一度、もう一度と軽く触れられるその間隔が少しだけ長くなる。
むに、と押し付けられる愛しさに少し口角を上げた俺に気づいた宍戸。夢中で繰り返していた自分の行為に突然羞恥をおぼえたらしい恋人が唇を離したので、頭の後ろに手を回して逞しい首筋にキスをした。舌の上で大げさにチュッと音を出してみれば、宍戸が首を反らして俺に委ねる。
野良犬がこうも急所をやすやすと差し出すのだ、今日はよっぽど機嫌が良いらしい。首筋から音を滑らせて行き、鎖骨を唇で優しく食む。せっかく宍戸の素直な今日は、かぶりついて愛を貪るよりもゆっくりと愛を確かめたい。あわよくば飼い犬にでもなればいい、たっぷり愛してやる。
部屋の空気に溶け始めた宍戸の吐息が、首筋を赤く色づけした俺の行為に一瞬くっと詰まった。いつもであれば飛んでくるであろう拳も今はおとなしく俺の肩に添えられているのだから愛おしい。
少しむっとした表情を見せた宍戸の短い前髪をあやすようにかきあげてやる。その手を振り払って俺の首筋に近づいてきた宍戸の犬歯が柔らかく食い込んだ。歯型についた唾液が部屋の温度に晒されてすうと冷たい。これでおあいことでも言いたげな顔。
頰に手を添えてその薄い唇に口づける。
宍戸の口は薄く開いているが、舌を覗かせようとはしない。無知ゆえの行動ではないだろう、この先がある事を知っている。元より何も知らぬ純粋ウブなやつなどでは決してない、こいつだって男である。舌を絡め吐息を深め唾液に濡れるキスのあることくらい知っている。
挑発するようにして舌先でちろりと宍戸の鋭い犬歯に触れ、すぐに唇を離す。俺と宍戸の隙間ができる一瞬前、宍戸が肩に腕を回して口づけ、しまいきっていない俺の舌をぺろとなぞった。
反射的に驚いた表情を浮かべたらしい俺を見て己の欲望を垣間見た宍戸が、ちゅっちゅと誤魔化すようなリップ音を立てて何度も唇に触れてくる。
誤魔化させるものかと深く噛み付くように角度を変えて宍戸の口内を舐った。期待の音がこもる口内ですぐにとろけあう二つの舌。ぐちゅりと重たい粘度が響く。
愛していると紡ぎ出したがる俺の口に気づいた宍戸がそれをさせまいと頭を抱きこんで音を飲み込み、かわりに俺の鼻から心地よさが抜けていった。離した口の端からつぅと繋がった透明が切れる。
どちらのものかもわからないそれをべろりと舐めとった宍戸の艶やかな赤。口もとに冷たさを宿す粘液のひかり。
期待と興奮に疼くその唇を俺も持っている。
スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。