「ずるくてごめんなさい」

目の前の淀んだ空が自分の髪と同じなのが嫌だった。その下に広がる冷たい黒紫の海と同じ色を持つ宍戸さんの目はこんなにも違うのに。首にかけたクロスまでもが灰色にくすむ。結局、信じられるのは目に見えるものだけなのだ。目に見えないものばかり信じようとして、このざまだ。
だからこの空と同じ自分の醜さも、この海と違う宍戸さんの美しさも、信じなければならない。
「宍戸さんは怖くありませんか。」
嘲るような海水が膝下を不気味に舐め回す。
「俺だってあの時は怖かった。」
海の底まで行ってしまえば、いっそあたたかいのだろうと思う。深海の色を帯びた宍戸さんの瞳がこんなにもあたたかいのだから。
「次はお前のどん底に行く。」
あぁ、この人が俺の永遠なのだ。この人だけは。俺の求めていた永遠は、宍戸さん、あなただ。
愛してごめんなさい。愛してごめんなさい。あなたを愛して良かった。
大きな波がどぷりと口を開けている。宍戸さんの頰に手を当てて、キスをした。あたたかで気持ちがいい。これっきりなのだ。

覚めないふたり。
冷めないひとみ。
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