「雨の日ってなんでこんな眠ぃんだろうな」
くぁ、と大きな欠伸を1つして、くっついてきた涙を人差し指で拭った。高い天井いっぱいの窓に雨粒がざあざあ打ち付けている。
「雨の日、狩りは休みだからじゃねーの。」
獲物がいないからな、跡部の重さにベッドが沈んだ。隣に腰をかけ窓の外を見つめる横顔をちらりとみてから振動したスマートフォンに目を向けた。
「ふーん、そんなもんなのか?」
「かもな」
突然の大雨で持て余した時間を埋めるように大量のメッセージを送ってくる岳人に相づちを打ちつつ、へー、と跡部に返す。
雨音が強くなったり弱くなったりして、眠気が体の力を抜いてくる。練習を中断されてまだ動き足りない燻った熱も埋もれるほどだ。異常なスピードで返ってくる岳人の返信が俺の誤字を笑っている。
ちゅ
いきなり、軽い音が首筋に触れた。
ちゅ、ちゅっ
雨の音か跡部と俺の音かはわからない、湿気を含んだ音が繰り返されて静かに落ちる。
跡部が俺の手からスマートフォンを抜き取ってベッドサイドのテーブルにごとりと置き、俺の頭を抱くようにしてゆっくりとベッドに倒しキスをした。背を受け止めた真っ白いシーツから跡部の匂いがする。優しくて長いキスが眠気と雨の音をかき混ぜて、心地が良い。岳人からのメッセージが2、3度テーブルの上で振動したのを頭の片隅で聞いた。
「宍戸」
唇を離し、覆いかぶさって俺の頬を撫でる跡部から漏れる吐息が熱い。
「おいおい、狩りは休みじゃなかったのかよ。」
ははっと笑って、口元をなぞってきた親指を甘噛みしてやる。
「雨の日でも腹は空く。」
光が滲む曇りの空がぼやかした影の輪郭の隙間から俺をとらえる氷の塊が、ぎらぎらとひかっている。あまりに梅雨に不釣り合いな野生の色から目が離せない、俺を離さない。あぁ、今から俺はこいつに食われるんだ、本能がぼんやりした頭にそう告げてきて、体がぞくぞくする。恐怖か、期待か、わからないけれど。
跡部の首をぐいと抱き寄せて言ってやる。
「ゆっくり食えよ、たまには」
「Wie du willst.(お望み通りに)」
瞬間2人の音が混ざり合って、雨は降り止まない。
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