引き伸ばされて、裂ける。
ベースの音ってわかんない。
蘭丸がベースを爪弾いている。
何もわからなくなる。蘭丸が何か喋っているんだと思う、一生懸命、本音で、心のこと。
別の言語で話されてるみたい。これからもわからないんだろうな、何をやっても。だから。
「ねえ、オムライス食べたい。」
「お前転がり込んできて結局毎回飯かよ。……ちょっと待て。」
蘭丸がベースをスタンドに戻して、のしのし台所に向かっていく。
私はベースを少し睨んだ。お前のおしゃべりは終わり。
型の落ちたオーブンレンジ、ご飯を解凍する音。
「オイ寝っ転がってねーで手伝え。」
「えー、蘭丸が作るのが美味しいのに。」
「うっせ、卵くらい誰がといたって変わんねぇよ。」
ぐうっと背伸びをした。目元にあてていた保冷剤はもうくたくたになっていた。
♭
ダイニングテーブルの上に、次に蘭丸が立つステージのチラシが置いてあった。グループの活動が多くなった今も、蘭丸は合間を見つけてはこうして小さな箱でもソロライブを続けている。
私をライブハウスに誘わない蘭丸は優しいと思う。
音でぎっしり埋まった密室。知らない人間と肌と肌を合わせて溺れる空間。楽器の音と人の匂いの中で、蘭丸の音を見つけられなかったらもっと。ひとりぼっちになってしまう。
きっとわかってほしいはずなのに。貴方の言語、そしてそれが輝く場所。
ごめんねって、口の中だけで呟く。
この四文字がどれだけ残酷か知ってるから。
「できたぞ、スプーン出しとけ。」
蘭丸の声は好きだ。
獣の唸りに似ている。優しい優しい地鳴り。
その声だけが、私の理解できる形になれる。私にわかる言語で、好きな音でやっと通じ合える。
「ハートとか描いてよ」
「かかねぇよ」
「そしたら猫ちゃんとか」
「ガラの問題じゃねぇ。」
「じゃあ私が書く、何がいい?」
「ァんでも良い。」
「ダメ、蘭丸が決めるの。」
「めんどくせぇ……んじゃテメーがネコ描け。」
「やっぱやめた、名前にする。」
「お前なあ!」
「ランランでい?」
蘭丸の音が聞こえる人がいるんだろうな。蘭丸の言葉がわかる人がいるんだろうな。ちょっとだけ羨ましいと思う。
いいな、私に聞こえない音、聞きたくない音。蘭丸が聞かせたい音。
「んで漢字で書くんだよ!」
「好きだから。」
「…………かけすぎだろうが。」
「本当だねえ」
私と蘭丸のオムライスを半分に割って、蘭の字を片方交換する。
でも、聞こえない方がきっと幸せ。
ごめんなさい。許さないで、でも寂しい。ごめんね。
幸せになってね。
「ねえ今日泊まっていい?」
「は?意味わかんねえ。」
「いいじゃん明日事務所行くし。こっちのが近いし。」
「ハァー……好きにしろ。」
「やった。蘭丸が床ね。」
「客側は言わねんだよそれ。」
「ふふ。」
「風呂は」
「済んでる、あっちで。」
「顔洗ったらもっかい冷やしとけよ、まだひでぇ顔してんぜ。」
サイアク、そう言いながら洗面台に向かう。その背にオムライスの半分の音。
「落ち着いたかよ。」
振り返りたくなかった。蘭丸がどんな顔してるか知りたくなくて。まっすぐ優しくて嫌だった。悪いのって私で。
がんばれ。
「平気。」
ふふんと笑って、その場でくるりと回った。蘭丸が近づいてくる気配を振り切るように歩く。弱くてごめんね。
「蘭丸って音楽みたい。」
うるさくて、全然わかれないのに鳴り止まない。でも、きっと誰かを救える。
ベースの音ってわかんない。
蘭丸がベースを爪弾いている。
何もわからなくなる。蘭丸が何か喋っているんだと思う、一生懸命、本音で、心のこと。
別の言語で話されてるみたい。これからもわからないんだろうな、何をやっても。だから。
「ねえ、オムライス食べたい。」
「お前転がり込んできて結局毎回飯かよ。……ちょっと待て。」
蘭丸がベースをスタンドに戻して、のしのし台所に向かっていく。
私はベースを少し睨んだ。お前のおしゃべりは終わり。
型の落ちたオーブンレンジ、ご飯を解凍する音。
「オイ寝っ転がってねーで手伝え。」
「えー、蘭丸が作るのが美味しいのに。」
「うっせ、卵くらい誰がといたって変わんねぇよ。」
ぐうっと背伸びをした。目元にあてていた保冷剤はもうくたくたになっていた。
♭
ダイニングテーブルの上に、次に蘭丸が立つステージのチラシが置いてあった。グループの活動が多くなった今も、蘭丸は合間を見つけてはこうして小さな箱でもソロライブを続けている。
私をライブハウスに誘わない蘭丸は優しいと思う。
音でぎっしり埋まった密室。知らない人間と肌と肌を合わせて溺れる空間。楽器の音と人の匂いの中で、蘭丸の音を見つけられなかったらもっと。ひとりぼっちになってしまう。
きっとわかってほしいはずなのに。貴方の言語、そしてそれが輝く場所。
ごめんねって、口の中だけで呟く。
この四文字がどれだけ残酷か知ってるから。
「できたぞ、スプーン出しとけ。」
蘭丸の声は好きだ。
獣の唸りに似ている。優しい優しい地鳴り。
その声だけが、私の理解できる形になれる。私にわかる言語で、好きな音でやっと通じ合える。
「ハートとか描いてよ」
「かかねぇよ」
「そしたら猫ちゃんとか」
「ガラの問題じゃねぇ。」
「じゃあ私が書く、何がいい?」
「ァんでも良い。」
「ダメ、蘭丸が決めるの。」
「めんどくせぇ……んじゃテメーがネコ描け。」
「やっぱやめた、名前にする。」
「お前なあ!」
「ランランでい?」
蘭丸の音が聞こえる人がいるんだろうな。蘭丸の言葉がわかる人がいるんだろうな。ちょっとだけ羨ましいと思う。
いいな、私に聞こえない音、聞きたくない音。蘭丸が聞かせたい音。
「んで漢字で書くんだよ!」
「好きだから。」
「…………かけすぎだろうが。」
「本当だねえ」
私と蘭丸のオムライスを半分に割って、蘭の字を片方交換する。
でも、聞こえない方がきっと幸せ。
ごめんなさい。許さないで、でも寂しい。ごめんね。
幸せになってね。
「ねえ今日泊まっていい?」
「は?意味わかんねえ。」
「いいじゃん明日事務所行くし。こっちのが近いし。」
「ハァー……好きにしろ。」
「やった。蘭丸が床ね。」
「客側は言わねんだよそれ。」
「ふふ。」
「風呂は」
「済んでる、あっちで。」
「顔洗ったらもっかい冷やしとけよ、まだひでぇ顔してんぜ。」
サイアク、そう言いながら洗面台に向かう。その背にオムライスの半分の音。
「落ち着いたかよ。」
振り返りたくなかった。蘭丸がどんな顔してるか知りたくなくて。まっすぐ優しくて嫌だった。悪いのって私で。
がんばれ。
「平気。」
ふふんと笑って、その場でくるりと回った。蘭丸が近づいてくる気配を振り切るように歩く。弱くてごめんね。
「蘭丸って音楽みたい。」
うるさくて、全然わかれないのに鳴り止まない。でも、きっと誰かを救える。
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