煙たい空気に愛を見出せるか否か。

悪いくせがある。
人一倍声がデカいことはまぁ良い。悪いのはその声で、
「アァ!?合コンだぁ!?聞いてねぇぞ!」
電話の内容を復唱してしまうこと。

電話口からキンキンと溢れ出す薄っぺらい岳人の謝罪を聞きつつ横目でリビングの跡部を見た。
部屋の空気が変わらないのが逆に怖い。跡部の指先がスマートフォンの画面をタップする音が岳人の声より大きく聞こえる気がした。
ただの身内飲みだったはずのそれ。集合時間までもう時間がない。このギリギリのタイミングで真実を連絡してきた岳人はなかなかの策士である。こういうのだけは上手いんだ、昔から。
後日謝罪代わりの焼肉は期待できる、しかし、食い物では腹の虫が収まらない奴がいる。
「わーったよ!行きゃいんだろ……おう、またな。あぁ待て待て、ジロー拾ってきゃいんだな?ん、じゃ。」
感謝の言葉もそこそこに通話終了の音が鳴って、いよいよ沈黙が注ぎ込まれることになる。
沈黙に堪え性がないのも困りものだと思う。
「あー、てわけでよ、ちょっと行ってくるな。」
サイフとスマホをポケットに忙しなく突っ込み車の鍵をがちゃがちゃとキッチンのカウンターで探す俺を、跡部の鼻にかかる笑いが呼んだ。
「いいじゃねーの、たまにはメス猫とも飲んでこいよ。」
飼い主様が許可してやる。
そう言って、俺の車の鍵についているストラップを指にかけてくるくる回した。
誰が飼い主サマだよ、軽く跡部の肩を叩いてから鍵に伸ばした手をふいっと避けらる。するりと首にまわる跡部のしなやかな腕。
なんだよ、言葉は飲み込まれた。跡部の中にか、俺の中にかはわからないが。
「ん、ん……ちゅ、」
思わず目を瞑ってしまうほどの心地良さ、舌を追いかけてしまう自分の素直さが憎い。
「……ぷは。」
「いってらっしゃい、My sweet.」
「……バカ。」
跡部が投げた鍵を受け取って唇を拭う。
ずるいヤツ、二次会には期待できそうにない。

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